

多様な価値観を持った者同士が互いを認め合うことの尊さを描いて、ミュージカル界に旋風を巻き起こし続ける『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が、日本橋浜町の明治座で上演中だ(21日まで。のち、5月5日~7 日大阪・梅田芸術劇場メインホール、5月15日~16日長野・サントミューゼ[上田市交流文化芸術センター]大ホール、5月23日~24日宮城・仙台銀行ホール イズミティ21、5 月29日~31日愛知・愛知県芸術劇場 大ホールで上演)。

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』は、日本では『天使にラブ・ソングを…』のタイトルでウーピー・ゴールドバーグ主演により1993年に公開され、大ヒットとなったコメディ映画を原作に2009年英国で製作されたミュージカル。日本初上陸となった2014年帝国劇場公演での、「一緒に踊ろうカーテンコール!」の大熱狂を皮切りに、重ねた上演史は今回2026年300回を突破。時を越えところを越えて愛され続けている。
その2026年公演は、作品初となる娯楽の殿堂・明治座での上演で、主人公デロリスに初演以来の森公美子と、今公演が初登場となる彩風咲奈を迎えたのをはじめ、お馴染みのキャストに多くの新キャストが加わり、変わらぬ魅力に新風を吹き込んだ舞台が展開されている。

【STORY】
1977年、ディスコブーム華やかなりし頃のフィラデルフィア。
天真爛漫で必ずスターになる!という夢を追い続けるデロリス・ヴァン・カルティエ(森公美子/彩風咲奈Wキャスト)は、クラブ歌手としてステージに立つことを目指している。だが、愛人でギャングのボスのカーティス・ジャクソン(松村雄基)は、自身が経営するナイトクラブでデロリスを歌わせようとはせず、はぐらかすばかり。
それでもカーティスに従っていたデロリスだったが、クリスマスにプレゼントとして手渡されたのが、カーティスの妻の毛皮だったことを知り、遂に我慢も限界に!カーティスと別れ、自分の力でスターになる道を切り拓こうと決意する。

そんな折も折、カーティスが子分の三人組TJ(岡田亮輔)、ジョーイ(施鐘泰)、パブロ(山崎大輝)と共謀して、仲間を殺すのを目撃してしまったデロリスは、彼らから命を狙われるハメに。

必死に逃げ延び助けを求めて駆け込んだ警察で、彼女は高校の同級生だった巡査のエディ・サウザー(石井一考/廣瀬友祐Wキャスト)と再会。重要証人であるデロリスを匿う「完璧な場所を思いついた!」とのエディの指示で向かったのは、クイーン・オブ・エンジェルス教会。なんと規律厳しいカトリックの修道院だった。

自分の心の赴くままに生きてきたデロリスが、修道院の生活に溶け込めるはずがないと、修道院長(鳳蘭)は猛反対するが、資金難に苦しむ教会に警察から多額の寄付が得られる、とオハラ神父(太川陽介)に諭されしぶしぶ承諾。不満を爆発させるデロリスも、結局は他に選択肢がなく、エディの提案に従うしかなかった。
かくて、デロリスは「進歩的な修道院からやってきたシスター・メアリー・クラレンス」として、シスター・メアリー・ラザールス(保坂知寿)、シスター・メアリー・パトリック(柳本奈都子)、見習い修道女のシスター・メアリー・ロバート(梅田彩佳)ら、多くの修道女たちと寝食を共にすることになる。

だが、デロリスの破天荒な行動は修道院の空気をかき乱すばかり。見かねた修道院長から、聖歌隊に参加する以外のことはしないよう厳命されるが、歌が歌えるとデロリスは大喜び。張り切って聖歌隊に参加したものの、そのコーラスのあまりの下手さに愕然とし、クラブ歌手を目指して鍛えた歌声と持ち前の明るいキャラクターを活かし、聖歌隊の特訓に励むことになる。その甲斐あってデロリスに触発された修道女たちのコーラスはみるみる上達していく。
やがて聖歌隊の歌は大評判を呼び、閑古鳥が鳴いていたミサには人が詰めかけるように。そのおかげで多額の寄付が集まった修道院は売却の危機を免れるが、それはすなわち、デロリスの居場所がカーティスたちの耳に入る日が刻一刻と近づいてくることでもあった。果たしてデロリスはこの危機を切り抜けることができるのか!?修道院と聖歌隊を巻き込んだ一大作戦が始まる!

初演以来、もう何度観たかちょっと数えられなくなっているこの『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』にまた出会って、終幕近く、舞台が涙にかすんで見えなくなるという、だからこれも何度目かもわからない状態に陥ったのが我ながら不思議なほどだった。それこそ映画の舞台を70年代に移して、ディスコ・サウンドやソウル・ミュージックを念頭に書き下ろされた、代表作だらけと言って過言ではない大作曲家、アラン・メンケンの心躍るミュージカル・ナンバーの数々はもちろん、ストーリー展開も、なんなら台詞まで覚えているのに、必ず心洗われるこの作品の魅力の大きさには、思うところがとても多い。もちろん私は黄泉の帝王が舞台を闊歩したり、大作曲家が身を削って音楽を生み出したり、ほぼすべての登場人物が神の国に召されて未来へ希望をつないでいく等々の、様々なカラーを持った作品たちも大好きだ。ただ、老若男女問わず、ミュージカルのコアなファンの方からこれがミュージカルへのファーストコンタクトという方まで、幅広く誰にでも諸手を挙げておススメできる作品としては、やはりこの『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が筆頭候補だなと、いつも感じる。おそらくここからミュージカルに触れてくれたら、誰もがミュージカルを好きになってくれるに違いない、そんな確信がこの作品には満ちている。

と言うのも、ストーリーの舵を切る重要な要素として殺人事件こそ起こるものの、この作品には終始パワフルな明るさと笑いがあふれていて、展開の全てを軽やかなコメディとして楽しむことができるからだ。その上スピーディなストーリーの流れに乗っていけば、必ず最後に温かな感動が満ちてくる。これがとびっきりでなくてなんだろう。
その感動の根幹には異なる価値観を持った者同士が、最後に心を寄せ、理解しあい、友情を育む美しさが立ち上るだけでなく、その帰結に全く絵空事感がないことがある。実際のところ、いまの世の中をひと目見ただけで、価値観の異なる他者を理解し、手を取り合うことが如何に困難かは身に染みてわかる。ある人から「日本とか、どこの国とかではなくて、“人類”は終焉に向かっているんだよ」と聞かされて、咄嗟に「そんなことはない」とはとても反論できなかった2026年。その暗澹とする現実が目の前にあるのに、この作品を観ていると、人ってちゃんと愛をもって、敬意をもって話しあえばわかり合えるんじゃないかと思わせてくれる、信じさせてくれるこの感覚は、まるで奇跡だ。

そんな舞台が持つ大きな力を、日本初演以来演出を担い続けている山田和也と、同じ年月を演出助手、演出捕として作品に携わり、今回公演では共に演出としてクレジットされた鈴木ひがしがてらいなく届けてくれる様が貴重だ。特に今回の上演では例えば「さあ、声を出せ!」1曲で怒涛のように進むストーリーのなかの、ドラマ性がより高められているなど真摯な進化も感じられるのが嬉しい。また多くのシーンが展開されるカトリックの修道院のなかという設定を、得意の舞台の高さも使って表現する松井るみの装置や、髙見和義の照明をはじめとしたスタッフワークが、客席から舞台までがとても近く、全体に四角いイメージがある明治座にびっくりするほどあっていて、まるで客席も教会のなかにいるかのように感じさせる効果には想像以上のものがあった。それはまた劇場に行きたいな、ではなくまた教会に行きたいなとすんなり思えたほどで、舞台を思い出すだけで笑顔になれる。その感触をキャストたちの大活躍が強固にする様は絶大だ。

初演以来、映画版で主演を務め、ミュージカル版をプロデュースしたウーピー・ゴールドバーグに捧げる敬意と共に「日本のウーピー・ゴールドバーグ」と称えられ、歌手・デロリス役を演じ続けている森公美子は、その圧倒的な歌唱力、殊にモータウン系と言われるソウル・ミュージックに特段の輝きを放つ歌声と共に、十全に発揮されているコメディセンスで今回も客席に爆笑の渦を広げている。ちょっとしたやりとりで何故ここまで、と思うほど笑わせてくれるのは森に備わった天性のものだろうし、その涙もろく、おおらかな持ち味がシスターたちを包み込んでいく日本のデロリスを築きあげた。なかでもシスター・メアリー・ロバートの訴えを聞く場面の優しさが心に染み入り、デロリスが自分の夢ではなくシスターたちとの友情に重きを置いていく展開に説得力を与える、森公美子が演じるからこそのデロリスがこの公演でも盤石だった。

そのデロリス役として初登場した彩風咲奈は、元宝塚歌劇団雪組トップスターで、美を追求し続ける宝塚のなかにあっても、異次元を感じさせた抜群のスタイルが、クラブ歌手を目指すデロリスが颯爽と登場する紫のブーツ姿に生き、舞台に立った瞬間から目が離せない。実際これだけのロングブーツを履いて、更にスカートから脚がここまで覗く人もそう多くないだろう。なかでも思ったことはハッキリ口に出し、衝突を繰り返しながら修道院のなかで自然にリーダーになっていく。宝塚の男役トップスターがつないできた歴代のなかでも、気風の良さと男前な個性を持った主人公になっていて、踊れる強みも生きた彩風のデロリスが誕生したのが素晴らしい。退団後第一作となるミュージカルでの初主演を見事に飾った。

デロリスの幼馴染で警察官のエディもWキャストで、今回は固定のペアが組まれた。その一人で、やはり初演以来エディを演じ続けている石井一孝は、パワーのある歌声や表情豊かな演技の一つひとつが、まるでアメリカンコミックから抜け出したかのよう。基本的にコメディのなかで、ただ転んで笑わせるというのは最も難しい領域だと思うが、それを難なくこなし、わかっているのに笑える安心感が絶大。自身がまるでミュージカルの伝道師のような存在でもある石井が、作品愛いっぱいに舞台に躍動している姿が頼もしい限りで、森との阿吽の呼吸も“芸”の域に達してきている。

長身と端正なルックスで、所謂二の線の役どころを多く演じている一方で、そういう抜群のビジュアルを持った人が繰り出すコメディのギャップで、振り切った役柄も手中に収めている廣瀬友祐は、続投のエディ役を内気で決して器用ではないながら、真面目で一生懸命という新たな造形で見せて惹きつける。これが颯爽とした彩風デロリスとの絶妙なコンビ感を生んでいて、自分だっていつかはヒーローになれる、と夢見るエディをいじらしいと感じさせるほど。ハイスクールの頃からデロリスに恋をしている様が自然に伝わり、ラストシーンの展開を最もすんなり受け入れられるペアになった。ちなみに“汗っかきエディ”とあだ名されている役柄の、その汗の処理が石井と廣瀬で異なる可笑しみも是非見比べて欲しい。

冷酷なギャングのボスで、デロリスを愛人にしていたカーティスで初登場した松村雄基は、その強面具合いと、自分の欲望に忠実でたぶんに子供っぽさも持っているカーティスの二面性を十二分に表現している。この役柄は物語の鍵を握ると同時に、あまりにリアルなギャングになり過ぎても作品全体のハッピーオーラに瑕疵を生じさせる難しさがあるが、近年ミュージカル界で躍進著しい松村の匙加減が絶妙で、クライマックスの緊迫感と感動につなげてくれた。カーテンコールで客席を見渡す滋味深い笑顔にも惚れ惚れする。

見習い修道女シスター・メアリー・ロバートは梅田彩佳が続投。人に逆らったことがなく、修道院にいる自分に疑問も持たない代わりに全く自信もなかったロバートが、デロリスによって新たな世界を知り、目を開かれていく表現が深まっていて「私が生きてこなかった人生」をロバートがどう生きていくかにも、思いを馳せられる存在になった。デロリスから冒険に出るシンボルとしてもらった紫のブーツを、ロバートがどうするのかも是非注目して欲しい。

明るくて好奇心旺盛のシスター・メアリー・パトリックの柳本奈都子も続投で、その明るさと大きな声により一層磨きがかかっている。優れた歌唱力を持つ人が、はじめ聖歌隊でみんなと声を合わせることができないパトリックの制御の効かなさをちゃんと表出していて、溌剌とした存在がいい。

他にもこの舞台に登場するシスターたちには全員名前がついているのも貴重で、デロリスと共に歌い踊るクラブシンガーのミッシェル役とシスター・メアリー・セレステの河合篤子。同じくティナ役とシスター・メアリー・モニカの家塚敦子をはじめ、個性豊かなシスターたちが、デロリスの「私は伝説になる!」やエディの「いつか、あいつになってやる」のスタイル良いダンサーを兼ねているとはにわかに信じがたいほどの変身の妙を見せてくれる。

なかでも独自の世界のなかに生きていることが終幕で大きな要素になるシスター・メアリー・マーティン・オブ・ツアーズの岩﨑亜希子。この人たちがいるのに音程が取れず、全く声の出ていない聖歌隊が成立している演技力に驚く、シスター・メアリー・メルチの湊陽奈。シスター・メアリー・フランシスの吉田萌美ら実力派の歌い手も多く入った面々が、それぞれシスター・メアリーのあとの名前ホープの石原絵理、ソフィアの笠行眞綺、アイリーンの神谷玲花、セシリアの輝生かなで、スティーブンの柴崎咲子、エヴァの島田彩、マーガレットの堤梨菜、ジェニファーの豊田由佳乃、テレサの舩山智香子、ルチアの玲実くれあと役柄の個性に名前がリンクしているのも楽しい。弁護士トニーの神澤直也、タクシー運転手の高木裕和、物語を動かすアーニーの堀江慎也、ニュースキャスターの町田慎之介も、意外な役柄でも次々に登場するので目に耳に楽しいし、全員やりがいも大きいことだろう。

またカーティスの子分三人組も今回キャストが一新。カーティスの甥でちょっととぼけた味わいのあるTJの岡田亮輔は、その自分では全く気付かないままひとつズレている表現が巧みで、いつもながらのコメディセンスを発揮。女性にモテるカッコいい男を自認しているジョーイに施鐘泰が扮したことで見栄えの良いスイート味がやや前に出て、三人組のコミカルさがより一層膨らんだ。言語の異なる役柄であるパブロの山崎大輝は、歴代最もカタコトの言葉を強調して、本人の華やかさと共にパブロ役を非常に大きく際立たせることに成功している。

更に、デロリスが飛び込んでくるまで聖歌隊の指導をしていたシスター・メアリー・ラザールスとして初登場した保坂知寿が、天性のウィットを効かせた芝居と、突如としてシスターたちを率いて舞台のセンターを担う姿が実に堂に入っていて、保坂が演じるならではのシスター・メアリー・ラザールスを造形。2026年版『天使にラブ・ソングを』の醍醐味を深めている。

修道女たちを見守りつつ現実が見えてもいるオハラ神父の太川陽介も、役柄の経験値が重なると共に、デロリスの歌声と音楽に魅了されて、大評判になったミサでの寄付金の増加を喜ぶノリの良さに、太川本人のポジティブさとプロ意識の高さが生きている。シスターたちと共に率先して身に着ける煌めく衣装を堂々と着こなす姿にもアイドル歌手だった出自が生きていて、独自のオハラ神父が健在だ。

そして、厳格な修道院長として、初演から上演回数300回を数えた作品を駆け抜けた鳳蘭は、その日その場のアドリブは全く差しはさまないまま、役柄としての台詞の面白さと表情変化で場を沸かせ続けて圧巻。デロリスに対する心の変遷、新たな気づきの表現も非常にわかりやすいアクセントになっていて、終幕の感動を深めた。余人に代えがたい当たり役ぶりで、稀代のレビュースターとしての顔も見えるカーテンコールのショーマンシップにも心躍る。

思えば今回の舞台には元宝塚の鳳、元劇団四季の保坂と、それぞれ大人気を誇る劇団で一時代を画したスターの共演という豪華さもあり、もちろん森と彩風の求心力は言うまでもなく、カーテンコールのキラキラ感が絶大。三人組の丁寧な振付講座以外のフレーズもどんどん踊っている観客の高揚感からも、この作品が如何に愛されているかが伝わってくる。もう一人の出演者である指揮者の田尻真高に率いられたオーケストラの熱量も高く、この輝きを是非一人でも多くの人に体感して、ミュージカルの楽しさに触れて欲しいと願う、いつまでも心躍る舞台だ。
(取材・文・撮影/橘涼香)

【公演データ】
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』
音楽◇アラン・メンケン/歌詞◇グレン・スレイター
脚本◇シェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
追加脚本◇ダグラス・カーター・ビーン
映画原作◇タッチストーン・ピクチャーズ映画「天使にラブ・ソングを…」(脚本:ジョセフ・ハワード)
演出◇山田和也・鈴木ひがし
出演◇森公美子/彩風咲奈(Wキャスト)
石井一孝/廣瀬友祐(Wキャスト)
松村雄基 梅田彩佳
岡田亮輔 施鐘泰 山崎大輝 柳本奈都子 河合篤子 家塚敦子
保坂知寿 太川陽介
鳳 蘭
神澤直也、高木裕和、堀江慎也、町田慎之介、石原絵理、岩﨑亜希子、笠行眞綺、神谷玲花、輝生かなで、柴崎咲子、島田 彩、堤 梨菜、豊田由佳乃、舩山智香子、湊 陽奈、吉田萌美、玲実くれあ
●3/25~4/21◎明治座
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブTEL:0570-00-7777(ナビダイヤル)
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/sister_act/index.html
〈全国ツアー〉
●5/5~7◎大阪・梅田芸術劇場メインホール
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 TEL:0570-077-039
●5/15~16◎長野・サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール
〈お問い合わせ〉NBS長野放送 事業部 TEL:026-227-3000
●5/23~24◎宮城・仙台銀行ホール イズミティ21
〈お問い合わせ〉仙台放送 事業部 TEL:022⁻268⁻2174
●5/29~31◎愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
〈お問い合わせ〉キョードー東海 TEL:052-972-7466



