
『エリザベート』『モーツァルト!』等などのメガヒットミュージカルを生み出したゴールデンコンビ、脚本・歌詞ミヒャエル・クンツェと、音楽・編曲シルヴェスター・リーヴァイが紡いだミュージカル『レベッカ』が、東京日比谷のシアタークリエで5月6日、7年ぶり4度目の幕を開けた(6月30日まで。のち7月10日~12日福岡・博多座、7月17日~7月19日大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、7月24日~7月26日愛知・御園座、8月1日~8月2日東京・シアター1010で上演)。
『レベッカ』は、イギリスの作家ダフネ・デュ・モーリアのゴシックロマンス小説を原作に、2006年ウィーンで初演されたミュージカル。身寄りのない天涯孤独のヒロイン「わたし」が、富豪のイギリス紳士マキシムと出会い、身分の差を越えて結婚。彼が所有するコンウォールの大邸宅マンダレイに移り住むが、屋敷にはマキシムの先妻であり、社交界の花だった完璧な女主人レベッカの影が色濃く残り、そのレベッカを崇拝する家政婦頭のダンヴァース夫人が「わたし」を決して女主人と認めないことをはじめ、様々な疑念が「わたし」の心をかく乱していき……というサスペンスとロマンスが絡み合う作品だ。
日本ではウィーンで初演から僅かに2年後の2008年、シアタークリエ・オープニングシリーズのミュージカル公演第1弾として初演され、以後3回の上演を重ね愛され続けている。
今回の2026年版はキャストを一新しての7年ぶりの上演で、作品のミステリー部分のキーパーソンとなる重要な役柄であり、レベッカの従兄弟を自称する車のセールスマン、ジャック・ファヴェルを演じるのが石井一彰。ミュージカルを中心に活躍し、映像にも活動の場を広げている石井が、大詰めの稽古場で感じる新生『レベッカ』の誕生を中心に、最近の舞台、そして将来のビジョンまでを語ってくれた。
歴史を創ってきた先輩たちへのリスペクトを胸に創る新たな『レベッカ』
──新生『レベッカ』いよいよ初日が近づいていますが、いまお稽古はいかがですか?
今回は演出の山田和也さん、演出捕の方、演出助手の方と三人の演出チームが動いてくださっているので、色々な意見がいただけていて、各場面を丁寧に固めていくことができたんです。それで、稽古後半はかなりの回数通し稽古ができました。「わたし」と「ダンヴァース夫人」がWキャストなこともありますから、僕たちシングルキャストのメンバーは、相当通しで稽古をする時間がいただけました。
──それは俳優さんにとって大きなことですか?
はい、心の動きもそうですが、体力的な部分の配分なども調整することができたので、とてもよかったです。もちろん舞台に行って、更にお客様が入られると、気持ちもあがるし、エネルギーもあがると思うのですが、稽古場での準備としては十分にできたなと思えています。
──そんななかで、この歴史あるミュージカルに演じる側として初参加されていかがですか?
やはり先輩方がここまで作品を創り上げてこられた歴史があってのいまですから、皆様へのリスペクトを持ち、その想いを受け継いだ上で、それを力にして新しい一歩踏み出すという形でやろうと思ってきました。自分が演じるジャック・ファヴェルという人物はかなり難しい役で。「持ちつ持たれつ」というナンバーを歌うのですが、アップテンポで面白い曲なんです。ただ、その曲に象徴されるような、癖が強くて面白いキャラクターに終わらせてしまうのはどうかな、と思っていて。
──作品のキーパーソンのひとりでもありますよね。
演出の山田さんとも「ファヴェルは、本当は何をしたかったのか?目的は何なのか?」というところを丁寧にお話させてもらいました。それを落とし込んで演じる、アップテンポの歌の中でも、心の中で思っていることは必ずしもそうではないのに楽しく歌ったり、また一転鋭く歌うところもあるので、目線やお芝居のなかにも、そういう要素を意識しています。ファヴェルは出演シーンが多いわけではないのですが、後半にすごく重要な、僕たち演者が「ミステリーゾーン」と呼んでいる色々な謎が解き明かされていくシーンがあって、ファヴェルが登場して歌い、引っ搔き回して終わるまで15、6分あるんです。
──舞台全体からすると、相当なボリュームですね。
そうなんです。演じている体感はすごく短く感じるので、そんなにあるんだという感覚なのですが、実際それだけの長さなので、そのシーンに向かう時には、ファヴェルが色々な種を蒔いていくことによって、作品のミステリー要素が一気に明らかになっていきますから、そこは難しさと楽しさを同時に感じています。幸い濃い稽古を重ねることができていて、共演者の方々も「前のめりで観られてあっという間に感じる」と言ってくださっているので、結末をご存じの方、今回初めてご覧になる方、どなたにも楽しんでいただけるのではないかなと期待しています。
ファヴェルは本当にレベッカを愛していた
──いまもずいぶんお話いただきましたが、ファヴェルというお役について何を大切に演じたいと思われているかを、もう少し言葉にしていただくとすると?
「持ちつ持たれつ」のナンバーに象徴されていると思うのですが、ファヴェルは車のセールスマンですが、真に生業にしているのは、相手に貸しを作ることなんです。その人の弱みや秘密を握って、僕はこれを持っているけれども、公表することなく貸しておくから、僕が困った時には助けてくれ、という。その対価はお金なのかもしれないですし、何かの行動なのかみもしれないのですが、そういう意味の「持ちつ持たれつ」という考えを持っている人間で。ですから彼はマキシムに対しても、ダンヴァース夫人に対しても、新たにマンダレイにやってくる「わたし」に対しても、優位に立てるカードを持っていたいんです。特にマキシムに対しては、彼より自分が上の存在になりたいという気持ちがとても強いんじゃないかなと思っています。それはものすごい嫉妬でもあり、もしかしたら憧れでもあるのかもしれない。だからこそマキシムが困るようなことを敢えてして、絶対に自分が1番上に立ってやる!というところを意識して通し稽古をしていました。ただ、やはりそうした気持ちの上でのちょっとした仕草などが、キャラクターとの整合性を伴っていないとお客様が感じるところが違ってきて、ノッキングを起こしてはいけないので、そこが難しいですが、ファヴェルがどんな人間なのかをお届けできるように演じていきたいと思っています。
──素敵な人でないと成り立たない役でもありますよね。色悪の香りと言うか。
それはよく言われるんですよ!プレッシャーなんですけど(笑)。ですから、色気とか所謂セクシーさみたいなものを結構意識はしています。内面から行きたいんですが、ダークな雰囲気の危ない色気みたいなものが、お客様に伝わればいいなと思っています。
──演出の山田さんからかけられた言葉で、特に印象に残るものはありますか?
「ファヴェルはレベッカを本当に愛していたんだと僕は思っている」というひと言をいただいたのが非常に心に残りましたし、悩みもしました。それが根底にあるとすると、かなり色々なことが変わり、演じ方も変わってくる場面が結構あったんです。『レベッカ』という作品自体、有名なヒッチチコックの映画など古いものから、最近ドラマ化されたものまで沢山あって、結末の解釈がそれぞれかなり違うんですよね。特に1番新しく制作されたドラマ版では、「わたし」が結局レベッカのようになる、という描写で終わっているんです。ファヴェルの行動や、結末に際して二人に言う言葉もミュージカルとは全く違っていて。その流れだとレベッカを本当に愛していた、というファヴェルの心情もわかりやすいのですが、あくまでもミュージカルが迎える結末のなかで、この作品のなかでのファヴェルに求められているキャラクターを演じた上で、でも山田さんのおっしゃるレベッカを本当に愛していたファヴェルをどう表現するかを模索しています。山田さんは全体をよくご覧になっていて、あまり細かい指摘はなさらないのですが、伺いに行くと本当に的確なことをパッと言ってくださるので、本当にありがたいです。
──また「わたし」とダンヴァース夫人がWキャストですが、皆さんとのお芝居はいかがですか?
いい意味で、それぞれ本当にキャラクターの違うお二人なので、ご一緒する方が変わる度に、まるで新しい作品に飛び込んだような感覚があります。特にファヴェルはダンヴァース夫人と絡むところが多いのですが、明日海りおさん、霧矢大夢さん共に、持っていらっしゃる強い光があるのですが、それが全く違う光なので、演じていてすごく楽しいです。
──特にミステリーは結末を知ってからもう一度観ると、あーここで言っていたのはそういう意味だったんだ!という発見も多いですから、Wキャストで色々な組み合わせで拝見できるのがより楽しみです。
絶対に面白いと思います。組み合わせが違ってもまた全く変わってくるので。

それぞれの人生に寄り添えるミュージカル
──石井さんの最近のお仕事についても伺いたいのですが、『レ・ミゼラブル』のジャベール役が大評判でしたが……
本当ですか?それ、僕には届いていないのですが(笑)。
──いえいえ「今期、絶対に石井ジャベールを観た方がいい」と何人に言われたことか。実際にとても素晴らしかったですし。
ありがとうございます。それは嬉しいです。
──ご経験としてはいかがでしたか?
僕はミュージカルをやりたくてこの世界に入ってきた人間なので、舞台に立っている充実感にはとても大きなものがあります。特に『レ・ミゼラブル』の舞台にジャベールとして還ってくることができ、舞台に立てたことは、みんなで稽古を重ねてひとつのものを創るのが、自分は本当に好きなんだなと再確認できた時間になりました。
──ミュージカルとひと口に言っても今回の『レベッカ』と『レ・ミゼラブル』では大きな違いがあると思うので、まとめて話していただくのは難しいかと思いますが、ミュージカルの魅力についてはどう感じていらっしゃいますか?
よく現実を忘れさせてくれるって言うじゃないですか。でも僕は、逆にその現実と結びついている部分が舞台の上にはたくさんあると思うんです。観終わったあとにも、皆さんの生活のなかでも思い出し、感じられるものが。それがミュージカルだと更に音楽の力がとても強いので、メロディーを口ずさんだりできることで、より皆さんの人生に寄り添える。それがミュージカルの魅力のひとつではないかなと思います。
──音楽によって伝えられるものがより多くなる?
俳優の心情とキャラクターの心情を表してくれますよね。さっきお話したファヴェルの「持ちつ持たれつ」でも人物像が曲によって浮かび上がると言うか。歌詞だけを聞くと、そこまで重要なことを言っている訳ではないんですが、この人は何を言っているんだ?という謂わばもやもやしたものがお客様に伝わることによって、ミステリーがつまびらかになる予兆になっていくので。
──ではジャベールで「Stars」を歌われている時にはどうですか?
「Stars」を歌う時には、とにかくその日のジャン・バルジャンの顔をイメージすることを大切にしていましたし、非常に早い段階で演出家に「このジャベールは絶対にジャン・バルジャンを捕まえる!とお客様に思わせなくてはいけない」と言われたんです。でもそれには存在感や歌唱力など、色々なものが必要になります。稽古をしていくなかでわかっていったのが、やっぱりジャベールって自分の正義を信じているんです。だから「Stars」は宣教師が教えを説くように、聞いている人たちに自らの信じる正義こそが正しいんだと、説得するように歌ってくれと言われたので、それはすごく大事にして歌っていました。舞台に立つと緊張しますし、色々な想念が入ってきてしまうこともあるのですが、「Stars」を歌っている時には、世界に自分一人しかいないような感覚になっていました。
──貴重なお話をありがとうございます。そして直近に発表になりましたが、今年は『RENT』にコリンズ役でご出演ということで、こちらも大変楽しみです。
オーディションを経て出演させていただけることになったので、全力でやり切りたいと思っています。20代の後半ぐらいの時にもオーディションを受けたことがあって、その時は通れなかったのですが、自分の人間性とこの作品とが遠くにあるからかなぁと、思ったりもしていたんですよね。非常にアーティステックですし、作品の持っているグルーヴ感と、自分がこれまで生きてきたそれとが違うような気がしていて。でもそこから時を経て、オーディションをまた受けさせてもらうことになった時に、自分が『RENT』のなかで生きられるキャラクターは誰だろう、と考えた時、コリンズに挑戦したいと。やっぱり『RENT』という作品に参加したいという気持ちは、どこかではずっと持っていたので、出演できることがとても嬉しいです。
──コリンズはとても魅力的なキャラクターですよね。
『RENT』の登場人物はそれぞれに魅力がありますが、コリンズはなかでも愛にあふれているので頑張りたいです。
──拝見できることを楽しみにしていますが、カラーの違う作品に次々とご出演されているなかで、今後の夢と言いますか、これをやってみたいなどのビジョンで教えていただけるものはありますか?
すごく漠然としているんですが、自分の中で10年スパンみたいな感じで物事を考えようとしています。あまり短い期間で考えてしまうと、自分を追い込んでしまうので10年ぐらいの単位で考えると、いま僕は40代、42歳なんですけど、50代になった時に自分がどうなっていたいか?を考えています。いままたミュージカル作品に出させていただける機会を多くいただけるようになっていて、ここから50歳までの期間、真ん中をやる年ではもうないと思っているので、作品の中でスパイスになるようなキャラクターを演じて行きたいなと。いま韓国ミュージカルがとても盛り上がっていて、僕も韓国へレッスンに行ったりもさせていただいていますし、特に歌唱力に関しては本当にすごいなと思っています。でも一方で日本のミュージカルには日本だけの良さもあるので、それを更に良いものにしていく歯車のひとつとして、作品に貢献できるような俳優でいたいと思っています。そして50歳になったら、その次の10年はちょっと海外に踏み出してみたいなと。ドラマかも知れませんし、時代もどんどん変わっていくので実際にそこに立ってみないとわかりませんが、口に出しておくことは大事かなと思っているので、そういう挑戦をしてみたいという気持ちがあります。
──言霊はすごく大事ですから。それにミュージカルの真ん中も絶対にあると思いますよ!
そうですか?頑張ります。
──そんなこれから先のご活躍も楽しみにしていますが、まずはチケットもどんどんなくなっているというこの『レベッカ』を楽しみにされている方たちにメッセージをいただけますか?
とにかく海宝くんの歌が素晴らしいんです。シングルキャストということで、演じる回数もとても多いのですが、やはり彼はすごく色々なことを勉強していますし、彼のミュージカルに対する真摯な姿勢を、今回改めてすごく感じたので、それをお客様にバンとお届けできると思っています。振付も一新されていて、はじまりの動きから変わるので、これまでミュージカル『レベッカ』を愛してくださっているお客様達にとっては、全く新しい『レベッカ』になると思います。そして出演者それぞれ一人ひとりが、これまでの『レベッカ』を、自分自身の身体のなかに入れて創っているというところは、お客様に伝わったらいいなと思いますし、その上での新しい『レベッカ』を楽しんでいただけたら嬉しいです。是非劇場にいらしてください。お待ちしています。
取材・文/橘涼香 撮影/伊藤彰紀 写真提供(扮装ビジュアル)/東宝演劇部

【公演情報】
ミュージカル『レベッカ』
脚本・歌詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲◇シルヴェスター・リーヴァイ
原作◇ダフネ・デュ・モーリア
翻訳・訳詞◇竜 真知子
演出◇山田和也
出演◇海宝直人
豊原江理佳/朝月希和 (Wキャスト)
⽯井⼀彰、俵 和也、吉⽥広⼤、彩乃かなみ、生田智子
明日海りお/霧矢大夢 (Wキャスト)
中⼭ 昇、港 幸樹
天野朋⼦、彩花まり、植⽊達也、岡崎⼤樹、奥⼭ 寛、⾦⼦桃⼦、神⼭彬⼦、吉良茉由⼦、後藤晋彦、⼩林⾵花、⽥中秀哉、⽶澤賢⼈
Swing 中嶋尚哉、渡辺七海
オリジナル・プロダクション◇ウィーン劇場協会
製作◇東宝
●5月6日(水・祝)~6月30日(火)◎東京・日比谷 シアタークリエ
〈料金〉平日13.500円 土日祝・千穐楽※ 14,000円
(※6月29(月)18:00公演、6月30(火)13:00公演)
一般前売り 4月11日(土) 11:00販売開始
〈お問い合わせ〉0570-00-7777(ナビダイヤル)東宝テレザーブ
公式ホームページ https://www.tohostage.com/rebecca/
[全国ツアー]
●7月10日(金)~7月12日(日)◎福岡・博多座
〈お問い合わせ〉博多座TEL.092-263-5555
●7月17日(金)~7月19日(日)◎大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場TEL.0570-077-039
●7月24日(金)~7月26日(日)◎愛知・御園座
〈お問い合わせ〉御園座TEL.052-222-8222
●8月1日(土)~8月2日(日)東京・シアター1010
〈お問い合わせ〉シアター1010チケットセンターTEL.03-5244-1011














