
ペドロ・アルモドバル監督の傑作映画が原作のラテンミュージカルコメディ、待望の日本初演となるミュージカル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』が6月7日東京・日本青年館ホールで上演中だ(21日まで。のち6月26日~28日福岡・博多座、7月2日~6日大阪・SkyシアターMBS7月10日~12日愛知・御園座で上演)。
ミュージカル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』は、1988 年に公開され、ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞した、スペイン映画界の名匠ペドロ・アルモドバルによる同名映画を原作に、2010 年ブロードウェイでミュージカルされた作品。楽曲賞などトニー賞 3 部門に、また2014 年のロンドン、ウエストエンド公演ではローレンス・オリヴィエ賞 2 部門にノミネートされるなど、大きな話題を投げかけた作品だ。
今回の上演は、2019 年にオランダ、2025 年にオーストラリアと世界各地での公演を経た待望の日本初演で、翻訳/訳詞/演出に現代のミュージカル界を牽引する演出家のひとりとして大活躍中の上田一豪。出演に元宝塚歌劇団雪組トップスターで、退団後抜群の歌唱力と確かな演技力で躍進を続け、2025年の『マスタークラス』『エリザベート』の成果により第33回『読売演劇大賞』大賞並びに最優秀女優賞、同年『芸術選奨文部科学大臣新人賞』- 演劇部門受賞と、高い評価を得て更に飛躍の時を迎えている望海風斗をはじめ、秋山菜津子、和希そら、長井短、髙嶋政宏など実力と独自の個性を持ち合わせた俳優陣が集結。新たな日本版の誕生に大きな期待が集まっている。
そんな舞台の開幕を前にした望海風斗が、作品への意気込み、また大きな足跡を残した2025年の作品、そして今後の舞台への思いを語ってくれた(※インタビューは『神経衰弱ぎりぎりの女たち』開幕前にお時間をいただいたものです)
本当の自分を思い出してもらえる作品
──ミュージカル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』お稽古たけなわと伺っておりますが、稽古場の手応えはいかがですか?
とても良い感じで進んでいると思います。カンパニーもすごく明るいですし、何しろ面白い作品なので、みんなで色々と試行錯誤をしながら、笑いを求めるというよりは、どうしたらこの作品をテンポよく皆さんに楽しんでもらえるようになるのか、というところを演出の上田一豪さんとスタッフ、キャスト全員で楽しく試行錯誤しています。セットチェンジもスタッフさんではなく、私たちキャストが自ら動かしていくので、それも含めてどう表現していくか、みんなで一から創り上げている感覚ですね。
──そのなかで、望海さんご自身、この作品の魅力をどう感じていらっしゃいますか?
登場人物たちの行動がみんな理屈じゃないんですよね。本能のままに行動していくというか。やっぱり皆さんそうだと思うんですけど、社会の中で生きていく為には、自分の本能の命ずるままにというわけにはいかないじゃないですか。周りへの気遣いももちろんですし、それぞれの環境で求められるものもあるし。でもこの作品のなかではみんな、まず自分が思うように生きていて、それでも絶対になんとかなるんだ!という力、そのエネルギーがすごくいいなと思います。まあ実際に近くにいたら大変な人たちだと思うんですけど(笑)。噛み合っているようで噛み合わない会話のなかでもそれぞれが大事にしているものをしっかり持って生きている、というところにフォーカスが当てられているのが、大きな魅力じゃないかなと思います。
──確かにいまなかなか厳しい世の中で、誰もがたくさん我慢しながら生きているところはきっとあるので、思うように生きている人たちの物語を観られると、発散できるだろうなと。
そうですね。家族や、社会に誰でもどこかで合わせていると思うので、観にいらしてくださった方に、本当の自分ってこうだったよね、というものを少し思い出していただけたらいいんじゃないかなと思います。
──そのなかで改めて、演じる役柄と、演じる上で大切にされていることを教えていただけますか?
私が演じるぺパ・マルコスは女優で、恋愛もまぁうまくいっていて、生活も安定している。舞台が80年代後半なので、いまほどバリバリ働き続けている女性がたくさんいる世の中ではなかった時代に、割と成功しているというか、自分というものをしっかり持って生きている人なんですね。でもそんなぺパが突然恋人に振られてしまうところから物語がスタートするので、いきなり自分のなかの軸を失うというか、いまの感覚だと「別に一人でも生きていけるんじゃない?」と思うんですけど、やはりこの時代の女性であるぺパは、共に生きていく将来を描いていた人から急に捨てられたことで、自分の人生の未来図みたいなものが崩れていく恐怖を感じるんです。ですから、恋人のイバンの存在がぺパにとってどれほど大きかったのかというところと、色々な人が登場して、様々な出来事が次々に起こり、ぺパが振り回されていく作品でもあるので、その瞬間、瞬間にぺパが何を感じて、何を選び取り、何を捨てるのか、その一つひとつを丁寧に、きちんとお客様に伝わるように演じることが大切かなと思っています。
──演出の上田一豪さんとは『next to normal』でご一緒されていますが、今回のお稽古場での上田さんとのセッションはいかがですか?
『next to normal』は再演作品でしたし、既に経験されている安蘭けいさんのチームもいらしたので、全く新しいものを作っているという状態ではなかったんですよね。ですから一豪さんとひとつの作品を一から創っていくのは、今回が初めてという感覚なのですが、何が凄いって一豪さんのエネルギーは途切れることがないんです。そのパワーについていくのが大変だというくらいで、一豪さんが明確なイメージを持って稽古に来てくださるので、ここで何がしたいのかがわかるんですよね。その一方で実際にやってみて、ちょっと違うかなという部分が出てきた時にも、一つひとつをすごく柔軟に「じゃあこうしてみようか」と色々チャレンジさせてくださるし、役者側からの提案もすごく楽しんで共有してくださいます。ですから自分自身の表現で迷うことはあっても、みんなで袋小路に迷い込むみたいなことは全くなく、一豪さんに作品をしっかり見ていただいてるんだという安心感が大きいです。やはり一豪さんもぺパの選択が明確に見えると、よりこの作品が素敵に見えるんじゃないかとおっしゃるので、大事に創っていきたいです。
突き抜けていながら親近感の沸くキャラクターたち
──お話から、様々な共演者の方々との関わりがとても大切になっている作品なんだなと思いますが、多士済々のキャストの皆さん、なかでも同じ宝塚歌劇団出身の和希そらさんとは宝塚時代に接点がなく、今回が初共演とのことですがいかがですか?
和希さんは、客席から観ている時にはセンスもあるし、器用でなんでもできる方な上に、自分というものをしっかり持っている役者さんだなと思っていたんです。でも実際に一緒にお稽古をしてみると、わりに色々なことを迷いながら創っていく人なんだなと感じていて。自身で「結構ギリギリまでもがくんです」と言っていた意味がよくわかりました。彼女が演じるぺパの親友のカンデラってとても難しい役でもあると思うし、おそらく本人にはない一面を持った役で、ナンバーもすごく大変なんです。そのなかでどう演じたらこの役がより魅力的になるかということを、一豪さんとも色々なやりとりをしながら、試行錯誤を重ねて創っているので、こんなになんでもできる人でもこうなのだから、稽古は大切だよね!と改めて思います。
──いまおっしゃった「なんでもできる方」というのは和希さんももちろんですが、私たちからすると望海さんがまさにそうした方だという思いがあるのですが。
台詞覚えや、振り覚えは早い方なので、そう見える部分もあるのかなとは思うんですよ。ただそこから中身を創っていくのは、結構時間がかかるので、今回髙嶋政宏さん、秋山菜津子さん、長井短さん等々、ずっとお芝居をされてきた方たちが近くにいてくださるのは、すごく勉強になります。イバン役の髙嶋さんはこの作品の映画版がとてもお好きだったそうで、顔合わせの時点でイバンというキャラクターのイメージをきちんと持って稽古場に来てくださったので、すごく刺激をもらいました。イバンがどういう人なのかが本読みから想像しやすかったですし、一緒に演じていてたくさんの発見があって、様々なチャレンジをしながら役や場面を創っていけるのでとても楽しいです。秋山さんは出ていらしただけで人を惹きつけるパワーを持っていらっしゃいますし、稽古中もやっぱり髙嶋さんや秋山さんが出てこられると、それだけで空気感が変わる、そのエネルギーを間近で浴びられるのがありがたいです。秋山さんのルシアとは作品のなかで対峙する役なので、そこにしっかり立ち向かえるようにというのがいまの課題でもあると思っているのですが、一緒にお芝居ができる幸せを感じています。長井短ちゃんはとても不思議な魅力を持った女優さんで、彼女にしか出せないものを発揮されていますし、他の方々もみなさん全く個性が違って、それぞれの役がとても魅力的なんです。みんなどこかで突き抜けたキャラクターでありながら、ちゃんと親近感が湧く、ちょっと可愛らしい部分も表現されているので、一緒にやっていて本当に楽しいですね。
──そうした様々な登場人物が活躍するミュージカルの、楽曲の魅力はどうですか?
全体のリズムが、ラテンやフラメンコなど、ミュージカルで歌われることはそれほど多くないのかな?というテイストのものがふんだんにあるので、きっとお客様にも楽しんでいただけると思います。特に今回の作品では音楽がドラマを運ぶというよりも、芝居がメインにあって、そこに音楽が乗っていくんですよね。例えばぺパの心情を歌っているものもあれば、ちょっと抽象的な曲や、かなりぶっ飛んでいる曲もあったりして、物語としては湿度が高くなっている場面を音楽でカラッとさせるところもあります。その分音楽のテンションにまで自分たちの気持ちをあげていかなければいけない、という面もあるのですが、ぺパの曲だけではなくて、それぞれのキャラクターが歌う曲にはポップス調のナンバーもあったり、この作品の中で色々な曲があるので、音楽を聴くという点ひとつをとっても楽しんでいただけると思います。
あれだけ高かった山を登ったんだぞ!という気持ち
撮影◇引地信彦
──そして、2025年の望海さんは読売演劇大賞受賞をはじめ、大変大きな成果を遂げられましたが、『マスタークラス』『エリザベート』と受賞理由になった作品について、いま改めて振り返っていかがですか?
『マスタークラス』に取り組んだ当時は、この作品が自分にとって大きすぎて、どう壁を乗り越えたらいいんだろうと考えながら、とにかくやるしかないという状態だったのですが、いま振り返るとそういう挑戦をさせてもらうこと自体がなかなかできないことでもありますし、それをやり切れたことで、自分のなかで大きな自信になりました。あれだけ高かった山を登ったんだぞ!という気持ちは、これから先またどんなに高い壁に出会ったとしても、『マスタークラス』をやれたのだから、という思いにさせてくれるだろうという、大変貴重な作品でした。実際、マリア・カラス先生の言葉が『エリザベート』でもすごく助けになりましたし、仕事への向き合い方、こだわり方というもの自体が『マスタークラス』を経て、自分のなかですごく変化したのを感じます。『エリザベート』は音楽にずっと引っ張ってもらって、とても幸せな時間が過ごせた、といま思えるのがちょっと信じられないくらいなんですよね。やはり何度も再演されてきた大作ミュージカルで、作品ファンの方もたくさんいらっしゃいますし、皆さんのなかに理想のエリザベート像があると考えると、そこに入っていくにあたっては、はじめは正直怖さもあったんです。でも本当にあの素晴らしい音楽に助けられましたし、生演奏のオーケストラで奏でられる音楽を毎日浴びることができたのが、いま思っても夢のようです。エリザベートの一生を演じる上では、舞台上に描かれていない部分のことをすごく考えました。3時間のなかで一人の人の人生を演じるので、割愛されている部分がたくさんありますが、それを如何にダイジェスト版にせずに生き切れるか?を大切にしていました。
──また、エリザベートを演じたあとで『エリザベートTAKARAZUKA30thスペシャル・ガラ・コンサート』ではトートを演じられました。前回25周年のガラ・コンサートではコロナ禍もあり、配信のみになってしまっての上演でしたが、エリザベートを演じたあとでトートを演じることで変化はありましたか?
自分自身がエリザベートを深く知った上での、エリザベートから見たトートとはなんなのだろうか?というものをずっと考えていました。それが自分のなかでのテーマでもあったと思います。トートという役柄をもう一度捉え直すことができたと言うか。そのなかでトートは男役をきちんとやる、ということをそこまで意識しなくてもいいんじゃないかなと思ったんですよね。中性的というのか、宝塚の男役の感覚でやろうとしなくてもいいのかな?というような。そう思えたのは私が宝塚の現役時代に男役としてトートを演じていない、ということが大きかったのかもしれません。やはりはじめは宝塚で演じていない自分が、ガラ・コンサートでトートとして舞台に立つことは失礼なのでは、という気持ちもありましたが、宝塚時代のあなたのトートはこうだった、というイメージがない分、新しいトートに挑めたのはありがたいことでした。
──2014年の花組公演、望海さんがルイジ・ルキーニを演じられた公演時に代役としてトートも務められていたということで、それは私たちが観ることの叶わないものでしたから、ドリーム感の強い素晴らしい公演でしたね。東宝版と併せて映像が残ることも嬉しいです。そして、今後のご出演作品もどんどん発表になっていて、日本で観られるのは大変久しぶりになるミュージカル『ファニー・ガール』、また『イザボー』の再演と続きますね。
『ファニー・ガール』は古き良き時代の王道ブロードウェイミュージカルという印象が強いもので、今回はリバイバル版の上演になりますから、前回日本で上演されたものとは印象は異なるかもしれませんが、スタンダードとして親しまれているミュージカルナンバーもありますし、それをオーケストラで上演できる舞台に立たせていただけるのはとても嬉しいです。華やかなショービジネスの世界で生きる、ちょっとユーモラスな女性の話ですけど、そういう明るい作品に挑戦できることを楽しみにしています。『イザボー』は前回やってみて感じたことや、この再演までの間に色々な経験をしてきましたので、作品への見方も変わると思いますから、より深まった『イザボー』をお届けできたらいいなと思っています。
──たくさんの舞台への期待が高まりますが、まずはこの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』を楽しみにされている方たちにメッセージを。
今までやってきた作品とは全然違うテイストの作品で、新しいことに挑戦できることと、みんなで試行錯誤しながら創っている日々がとても楽しいので、お客様にいい形でお届けしたいです。最後まで皆で諦めずに追求して、良い形で初日を迎えられたらと思っていますので、是非劇場にいらして下さい!

【公演情報】
ミュージカル『神経衰弱ぎりぎりの女たち』
原作◇ペドロ・アルモドバル(映画「神経衰弱ぎりぎりの女たち」)
脚本◇ジェフリー・レーン
音楽/歌詞◇デイヴィッド・ヤズベク
翻訳/訳詞/演出◇上田一豪
出演◇望海風斗 秋山菜津子 和希そら 長井短 溝口琢矢 黒川桃花 遠山裕介 髙嶋政宏 ほか
【東京公演】
●6月7日(日)〜6月21日(日)◎日本青年館ホール
チケット料金(全席指定・税込)
初日、千秋楽、各昼公演 S席15,000円/A席10,000円/車椅子席15,000円
夜公演 S席14,500円/A席9,500円/車椅子席14,500円
チケットのお求め、詳細公式ホームページ参照
公式ホームページ https://www.shinkeisuijaku.jp/
製作◇TBS/ワタナベエンターテインメント
【全国公演】
●2026年6月26日(金)~28日(日)◎福岡・博多座
https://www.hakataza.co.jp/lineup/135
●2026/7/2(木)~2026/7/6(月)◎大阪・SkyシアターMBS
https://www.umegei.com/schedule/1360/
●7月10日(金)〜7月12日(日)◎愛知・御園座
https://www.misonoza.co.jp/lineup/month260710.html
(取材・文/橘涼香 写真提供/ワタナベエンターテインメント)















