
2026年10月28日(水)~11月1日(日)世界初演の一人ミュージカル『BLACK BOX』が上演される。
ミュージカル『BLACK BOX』は、航空事故の原因究明に欠かせないブラックボックス(フライトレコーダー)を発明したオーストラリア人科学者デイビッド・ウォーレンの実話をもとにしたミュージカル。幼少期に航空事故で父を失ったデイビッドが、「なぜ事故は起きたのか」という問いの答えを探し続け、やがて世界中の航空安全を変える発明へとたどり着く一方で、その功績を語ることができないばかりか、守りたかったはずの家族との関係にも葛藤が生まれていく様を通して、信じるものを諦めない強さと、過去の記憶を未来へ受け継ぐことの意義、失われた声に耳を傾けることの大切さが描き出されていく。
なかでも最大の特徴は、2024年にオーストラリア・クイーンズランド州立パフォーミングアーツセンター(QPAC)で二人ミュージカルとして上演された作品を、一人ミュージカルへと再構築して、翻訳・訳詞・演出の渋谷真紀子が目指した、デイビッドの発明であるブラックボックスそのものを想起させる上演形式。極限まで削ぎ落とされた舞台空間に一人の俳優が立ち、あたかもブラックボックスに記録された声を再生するように、録音された共演者の声と共にデイビッドの人生を追体験していく、この手法としては世界初演となる。
そんな作品で主人公デイビッド・ウォーレンを演じるのが大音智海。『ジャージー・ボーイズ』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』など数々のミュージカル作品の日本版オリジナルキャストとして出演を重ね、『ジャージー・ボーイズ』New Generation Teamで、天使の声を持つフランキー・ヴァリ役を演じた記憶も新しい大音が、約90分の上演時間、たった一人で主人公の人生を演じ歌う。
そんな大音に作品に臨む思いを中心に、叶えたい夢に向かってひと時も歩みを止めずに進み続ける、そのモチベーションの在り処を語ってもらった。

デイビッドとは最高の友達になれる
──まず、この作品のオファーを受けたときの気持ちから教えてください。
純粋に嬉しかったですね。『ジャージー・ボーイズ』New Generation Teamでフランキー・ヴァリをさせていただいて以来、初めての新たな主演のお話でしたし、翻訳・訳詞・演出の渋谷真紀子さんとは、これまでお仕事こそご一緒したことはなかったものの、僕の生い立ちからミュージカルへの想いまでと、様々な話を聞いていただいていたんです。その時、「いつか一緒にお仕事をしたいです」と言ってくださっていたのですが、その言葉通りに、こんなにも素晴らしい名誉ある作品にお誘いいただけた。何よりも、僕の歌やダンスだけではなくて、僕が自分の夢を追って戦い続けている、その人生を見て、『BLACK BOX』のデイビッド・ウォーレンという、戦って、戦い続けて、大きな夢を叶えた人物を演じて欲しい、と言ってもらえたことが、本当に嬉しかったです。
──いま、ちょうどお話が出ましたが、演じるデイビッド・ウォーレンの生き様が、大音さんご自身のそれと重なる部分が多いのではと。
台本を読ませていただいた時に、SNSにもとても書けないような、僕が一人家で吐き出すしかない言葉が、そのまま台詞になっているのに驚いたほどでした。「これを公に叫んでいいんだ」みたいな(笑)。デイビッドは幼少期に航空事故で父親を失い、「なぜ事故は起きたのか」を解明する為の「ブラックボックス(フライトレコーダー)」を発明した実在の人物ですが、その開発はなかなか周りの理解を得られず、何度も心折れながらも、決して諦めることなく立ち上がっていった。その姿にシンパシーを感じましたし、70年前の物語ですが、同じ時代に出会っていたら、君とは最高の友達になれる、ここに仲間がいたんだと思いました。
──それこそが、大音さんがこの作品と役柄に出会った理由でもあったのでしょうが、今回の上演形態が一人ミュージカルということで、もちろんスタッフの方々はいらしても、お芝居のお稽古としては演出の渋谷さんと大音さんの一対一で、という形なんですよね?
基本的にはそうなのですが、渋谷さんのアイディアで、録音した声での出演の方たち六名が実際に来てくださって、普通のミュージカルと同じように本番の舞台の浅草九劇で、実際に立って演じてみることができたんです。
──それはすごく大きいですね。
本当に大きくて、北川理恵さん、戸井勝海さん、ひのあらたさん、今泉りえさん、金子大介さん、千葉一磨さんの姿が僕には見えると思います。やっぱり自分一人で広げていたイマジネーションを超えてきてくださったんですよね。ここでハグしてくれるんだとか、ここで振り返ってくれるんだとか。そういうすべてを脳内に焼き付けて、皆さんと一緒に稽古をしている感覚なので、本番も決して一人だとは感じないだろうと思います。ただ、いまこうして取材をしていただいている時のように、一対一で会話をしている場面で相手を想像することはさほど難しくないのですが、様々な方向から複数の登場人物の声が聞こえてくる場面では、脳内がショートするような気持ちになる瞬間もあって。そこは大きな課題でした。
──お話を伺うだけで難しそうです。
もうひとつ、デイビッドの一生を描く作品なので、いまの僕と同じような年齢の時代もありますが、6歳、7歳の子供時代の動き方にどう説得力を持たせるかなど、研究し、学ぶことがたくさんあります。
──そうした役の年齢が様々で、場面ごとに切り替わっていくことには、大音さんがこれまで様々な作品にアンサンブルメンバーとして参加されて、多くの役を次々に演じ分けたご経験も生きるのではないですか?
それはすごく感じていて、いま子供時代の話をしましたが、かなり年齢を重ねていく場面もあるので、そういったところでは『ジャージー・ボーイズ』の裁判官役で、如何に年配に見せるかにすごく苦労して培ってきたものが生きるなと思っています。特にアンサンブルでの出演の場合、様々な役どころの一つひとつの情報が少ないし、台詞もないなかで、そのキャラクターに命を宿らせなきゃいけない。ある意味では台詞がたくさんある役柄よりも制限がかかったなかで、キャラクター造形をする訓練をずっとしてきたので、いざこうしてたくさんの台詞がある役柄と向き合った時に、よりイマジネーションが湧いてくるな、というのは実感としてあります。
──『アイ・ラブ・坊っちゃん』での高浜虚子役は、プリンシパルと言っていい大きな役柄でありつつ、一瞬で坊ちゃんの生徒役にも変身されていて、引き出しが多いなぁと思いましたから。
ありがとうございます。そういう経験は本当に助けになっていますが、今回は台詞がある、と言うよりもあまりにも膨大で、上演時間90分の間の台詞と歌の量は、フランキー・ヴァリよりも多いんじゃないかと思いますから、まず覚えるのが大変でした。でもこれまでたくさんの台詞がある役をやりたい、とずっと目指してきたので、それを苦労ではなく喜びと捉えていて、その喜びをガソリンに役と作品に立ち向かっている感覚です。

想像力で僕と共演して欲しい
──そのガソリンの量も膨大だと思いますが、ミュージカルナンバー、楽曲のテイストとしてはどんなものが多いのですか?
そこがまた本当にすごいんです。ミュージカルって俗に「スルメ曲」と呼ばれる、劇中で何度も繰り返されていくうちに、ものすごく癖になる楽曲もあるじゃないですか。でも『BLACK BOX』のPaul Hodgeさんの楽曲は、すごくわかりやすいポップスで、しかも同じメロディーが多用されるので、お客様の耳にすごく優しいんですよね。まるで車の中で聞くようなポップソングが散りばめられていつつ、ミュージカルとしてもきちんと成立している。その上一人で歌って楽しいだけではなくて、掛け合いによって感情が高ぶっていく、ポップソングで心の交感が繰り広げられていくんです。というのもなんとPaul Hodgeさんの師匠にあたるのが、『レ・ミゼラブル』と『ミス・サイゴン』を創った方なんです!
──えっ!?師匠がクロード=ミシェル・シェーンベルクですか!?
はい、Paul Hodgeさんはあの巨匠の右腕として生きてこられて、そのノウハウが詰め込まれている方な上に、現代的なポップスが融合されているので、もう本当に見事な曲たちばかりで。
──すごい話になってきましたね。
しかも今回、生オケではなく打ち込みで、それこそ『レ・ミゼラブル』のように弦楽器を多用して壮大に奏でるものもあれば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようなエレキギターのロックンロールもあり、打ち込みだからこそできるクラブサウンドもある。逆に生オケでは絶対にできない多様な音楽の宝庫なんです。そこに色々な生活音、食器の音とか飛行機のエンジン音などが、ドラムになってビートを刻んでいくという現代的な要素もあるので、楽曲のクオリティはとんでもなく高いです。しかも渋谷さんが、ずっとオーストラリアとニューヨークの二拠点で生活をされてきた、英語をネイティブのように扱う方なので、英語のリズム感を日本語に変換する能力も素晴らしく高くて、Paul Hodgeのリズム感をここまで日本語で再現できるなんて、と歌っていて驚いています。
──英語の歌詞を日本語に訳した時の難しさは、翻訳ミュージカルが常に抱える大きな壁ですものね。
そうなんですが、今回はきっと全く違和感なく日本語で聞いていただけると思うので、そうした音楽の面でもすごく楽しんでいただけると思います。
──その渋谷さんからかけられた言葉で印象に残っているものはありますか?
僕は褒められて伸びるタイプなので、先日渋谷さんが言ってくださった「あなたは一人芝居の天才だ」という言葉は、いま宝物にしています。やっぱりどれほどやる気に満ちていても、これだけ新しい挑戦で不安なことも多いなか、そういう言葉がひとつあるだけで、自信と誇りを持って役に挑めるので。
──素晴らしいですね。
それからいつもおっしゃっているのが、一人芝居、一人ミュージカルだけれども、あくまでもプレゼン大会ではなく、相手とのお芝居なんだ、ということで、舞台上には僕しかいませんが、お客様の目にも北川さん、戸井さん、ひのさん、今泉さん、金子さん、千葉さんの姿が浮かび上がるような芝居を心がけたいですし、是非想像力で僕と共演してほしいと思っています。劇場空間には僕とお客様がいるので、僕と同じに90分間脳をフル回転させてもらいたいです。
──それは演劇だけが持つ醍醐味でもありますよね。同じ空間を一期一会の人たちが共有して、想像力によってそこにないものを見て、あるものを見ないことができるというのは。
そうなんです。是非その演劇の想像力を発揮していただきたいです。
──ほかに演じる上で大切だと思っていることはありますか?
先ほどもデイビッドと僕にはすごく共通点があるとお話しましたし、シンパシーも感じていますが、あくまでも同じではない、というところはきちんと意識しておきたいです。僕はやっぱりこのミュージカル業界で生きていくと決めてきたなかで、自分の個性を生かして自由に演じたいという思いとは別の次元で、集団芸術である舞台を創っていく上での協調性や、みんなで気持ちよく働ける空気作りをすることを学んできました。だからこそ、いまもこの世界でなんとか生き残れているんだと思います。一方で僕はデイビッドの実の息子さんとオンラインで話す機会をいただけたんですが、そこで「僕も夢を持っているから、あなたのお父様の生き方を非常に尊敬している」と伝えた時に、息子さんが「本当に夢を叶える為には、周りからの目を一切恐れず、気にせず、突き進む頑固さが必要だと、父を見ていて感じます。そうでないとたどり着けない場所がある」と言われた。その言葉がとても印象に残りました。
──あぁ、深いし、ある意味では厳しいですね。
やっぱりデイビットの持つそんな尖り具合は大切にしたいんです。70年前のオーストラリアで、年功序列や官僚機関に牙を向き続け、折れなかったデイビットの、ジャックナイフのような鋭さは常に大切に持って、デイビットを演じたいと思います。

恵まれている自分を知ったからこそ頑張れる
──大音さんに以前にお話を伺ったのが、演劇専門誌「えんぶ」で私が連載しているミュージカル界次世代の星をご紹介する「Musical New Age」のコーナーで、その時も、そして主演作が控えるいまも、大音さんを突き動かしているエネルギーは本当に大きいなと感じますが、ご自身のモチベーションをどう保っているのですか?
僕もそれについて自問したことがあるのですが、僕は親の仕事の関係で、子供の頃海外の発展途上国で暮らしていたんですね。その最後に行ったのが、小学校3、4年生の頃の南米のボリビアで。学校はインターナショナルスクールに通っていたのですが、僕がサッカーをやりたいと言ったら、スクールの子が通うサッカークラブではなく、母が敢えて僕を現地の子供たちが集っているサッカーチームに入れたんです。貧富の差が激しい地域でしたから、学校の同級生はお揃いの綺麗なユニフォームとスパイク、グラウンドも整備されたサッカークラブで練習しているなか、僕は、僕以外の子はほとんど裸足で、水たまりのあるボコボコの地面に、棒を立てただけのゴールポストという環境でサッカーをやっていて。それこそが母親の作戦だったんですけど、自分の着ている服と現地の子供たちの服装とのギャップみたいなものを、子供ながらに肌で感じました。でも一人綺麗な服を着ている僕を、ボロボロの服装の現地の子供たちが、なんのわだかまりもなく受け入れてくれて、全くいじめも何もなかった。その日々から、自分が明らかに恵まれていることを知ったんです。そうした環境にいさせてもらっているからこそ、その恩恵を無駄にしてはいけないんだと思いましたし、日本に帰ってきてからも、塾に通って受験勉強もするけど、バンドもするし、文化祭の応援団もするみたいな、人生の時間をフルMAXで使うようになったんです。だから今も夢に向かって頑張り続けていられるのは、そんな自覚があるからだと思います。
──とても貴重なお話をありがとうございます。今後もそのエネルギーで、どんどん新しい大音さんを見せていただきたいですが、まずは開幕が迫ったこの主演舞台、一人ミュージカル『BLACK BOX』を楽しみにされている方たちに、メッセージをいただけますか?
先ほどからお話させていただきましたが、舞台に立つのは僕一人ですが、たくさんの共演者、演出の渋谷さんはじめ多くのクリエイターやスタッフの想いのこもった作品になっていますので、是非そのパフォーマンスを楽しんでいただきたいです。また、もうひとつとても大切な僕の相方である、New Voiceキャストの柴原直樹さんが演じるデイビッドも本当に素晴らしくて、お互いにお互いがいてくれてよかったと、日々感じる関係性になっています。やっぱり一人ミュージカルなので、ともすると客観性が失われかねないなかで、お互いの稽古を観ることによって「なるほど、そう見えるのか」ですとか「あ、そのアイディアとてもいいね!」と気づかせてくれる、同じ役を演じる仲間がいるのが本当に嬉しいことなので、是非柴原さん出演回もご覧いただきたいです。僕にとってもこうした一人ミュージカルに出演できることは、そうある機会ではないと思いますから、ありがたいことに完売の回も多くなっていますが、一人でも多くの方に観ていただきたいです。僕とデイビットの人生の化学反応を体感しに、浅草九劇にいらしてください!お待ちしています。
Autumn Special Question
あなたにとっての秋は「〇〇の秋」ですか?その理由も教えてください。
体調管理の秋です。やっぱり夏って気温が高い分、無条件で筋肉が常にウォームアップされているのですが、それが秋になって気温が下がってくると、パフォーマンスの質がちょっと落ちてしまったり、季節の変わり目は特に体調も崩しやすいので、この『BLACK BOX』を控えて体調を万全の状態にしておくこと、体調管理が2026年秋のテーマです。

【公演情報】
日豪友好50周年記念一人ミュージカル『BLACK BOX』
脚本・作詞・作曲◇Paul Hodge
演出・翻訳・訳詞◇渋谷真紀子
出演◇大音智海
声の出演◇北川理恵 戸井勝海 ひのあらた 今泉りえ 金子大介 千葉一磨
* New Voiceキャスト出演◇柴原直樹(10月30日14時、10月31日17時)
●2026年10月28日(水)~11月1日(日)◎浅草九劇(東京都台東区浅草2-16-2 浅草九倶楽部 2階)
<チケット>
■ ファーストクラス(最前列保証・パンフレット付き) 14,000円(税込)
■ ビジネスクラス 11,000円(税込)
■ エコノミークラス 9,800円(税込)
【企画・主催】 Luna Hana Theatre Company
公式HP= https://www.makikoshibuya.com/blackbox2026
(取材・文/橘涼香 撮影/中村嘉昭)
















