
宝塚歌劇団で上演された名作を朗読劇として再構築し、新たな光をあてる梅田芸術劇場が制作するumegei朗読シリーズ。本年3月に上演され、好評を博した朗読劇『忠臣蔵』に続く第2弾、朗読歌劇『心中・恋の大和路』が6月24日(水)~28日(日)東京・草月ホールで、7月2日(木)~7月3日(金)兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演される。
近松門左衛門「冥途の飛脚」を題材に、1979年宝塚バウホールにて瀬戸内美八主演で初演されたこの作品は、近松の世界に多彩な音楽を持ち込んだ菅沼潤による大胆な脚色・演出と吉崎憲治の楽曲に、瀬戸内の代表作と呼ばれるに至る名演が大評判を呼び、1982年に同じ瀬戸内主演で再演。その後1989年月組で剣幸。以降の潤色・演出を谷正純が担った1998年の雪組で汐風幸。2014年に雪組で壮一帆。2022年雪組で和希そらと、再演を重ねてきた宝塚歌劇至宝の名作のひとつ。今回朗読歌劇としての上演は、シリーズの幕開けを飾った朗読劇『忠臣蔵』で鮮やかな手腕を発揮した荻田浩一が、引き続き上演台本・演出を担当。初演の忠兵衛瀬戸内美八と、南風舞の梅川。2014年公演と同じコンビ復活となる忠兵衛壮一帆と梅川愛加あゆという、2組の主演ヴァージョンが実現。梅川・忠兵衛の悲しくも美しく狂おしい愛の世界が、詩情豊かな歌と台詞の朗読歌劇として蘇る。
そんな作品で、忠兵衛役を演じる壮一帆が、宝塚歌劇団トップスター時代に演じた作品に、いま再び俳優として挑む想いを語ってくれた。
作品を経験したことが大きな財産になっている
──宝塚歌劇の名作を朗読劇として新たに蘇らせる、という素晴らしい企画の第二弾ですが、朗読歌劇『心中・恋の大和路』へのオファーを受けていかがでしたか?
瀬戸内美八さんをはじめ初演メンバーの方々も参加されるということで、私がご一緒させていただいていいのでしょうか?という思いがまずありながらも、私で良いと言っていただけるのならば是非!との気持ちで、喜んでお受けさせていただきました。
──こうした名作が新たに朗読劇として再構築されることについてはどう感じていらっしゃいますか?
本当に色々な方々が大切に演じていらして、尚かつたくさんのお客様に愛されてきた素晴らしい作品なので、心してかからなければいけないと思っています。実際に宝塚時代に演じさせていただいたときにも、作品の伝統や、スタッフの方々のこだわりにとても大きなものがあったので、それらを引き継いでいく責任も感じています。集中してやりたいです。
──その宝塚で作品に取り組まれた当時、ご自身で特に印象に残っていることはありますか?
忠兵衛は上方の二枚目なので、その本質がつかみきれなくて相当ジタバタしました。尼崎に近松門左衛門先生のお墓があって、そこにお参りした時にも「頑張ります!」ではなくて「何かヒントをください」と心の中でお願いしていたのをよく覚えています。でも演出の谷正純先生や、振付の峰さを理先生をはじめ、専科の汝鳥怜さん、演技指導の立ともみさんなどたくさんの先輩方が愛あるご指導をしてくださり、様々なアドバイスをいただけたので、私自身本当に恵まれていたなと感じています。皆様に助けられたからこそ上演にたどり着けましたし、私自身はすごく苦しみましたけれども、この作品を経験できたことは、宝塚を退団したあとも俳優という仕事を選ぶ上で、とても大きな財産のひとつになっていると思っています。
──確かに忠兵衛は一般的なイメージと言ってしまうと軽く聞こえてしまうかもしれませんが、ファンの皆様が持っていらっしゃる宝塚の男役さんのカッコ良さとは、少し違うところにいる人物像ですね。
そうなんですよね。その辺がとても難しいなと思っていて。初演当時の宝塚歌劇団における作品群やファンの方々の雰囲気と、私が演じた時点のそれとでは変化もしていたので、そうしたジレンマみたいなものは自分の中にもありました。それこそトップスター制度というものも、現代に行くにつれてどんどん圧倒的な存在に固まって行っていましたし、ファンの方々が抱く男役、娘役それぞれのイメージも強固に形作られていましたから。もちろんそれは時代の流れのなかで必要なことだったのでしょうし、決して否定はしませんが、やはり過去の名作を演じるにあたっては、なかなか大変な部分は正直ありました。何よりも上っ面だけではなく、きちんと細胞のレベルで忠兵衛を自分の中に落とし込みたいという気持ちがありながらも、なかなか降りてこなくてそこですごく苦しんだ記憶が強いです。
──その辺りのことを相手役の愛加あゆさんともお話しになられましたか?
彼女は梅川にとても合っていましたし、普段からとにかく私に「ついて行きます!」という姿勢でいてくれたので、わたしは逆に彼女の芝居をしっかり受けることによって、忠兵衛の気持ちにさせてもらえたところが大きかったんです。いつもそうでしたけれども、この作品においても彼女にはとても助けられました。
──では、今回再びお二人で作品に取り組まれるのも楽しみですね。
嬉しいです。お互いに俳優としての人生を歩み出してからもご縁があり、何回か共演しているのですが、それを経た上でまた男役と娘役に戻って演じた時に、どう変わって見えるのか、私自身もですがお客様にも是非楽しみにしていただきたいです。
──お二人の共演はいつも楽しみばかりですが、今回はそういう意味でも懐かしいだけではない関係性が拝見できそうです。また、はじめは単純に瀬戸内美八さんと南風舞さん、壮さんと愛加さんの2チーム制によるWキャストだと思っていたのですが、よくよく拝見しますと、壮さんたちは全日程ご出演なんですね?
そうなんです!初演チームの皆さんの回にも出演させていただくので、どの役で出るのか?は、是非、皆様に楽しみにしていただきたいです。
──あそこかな?という想像をしてしまいますが。
さぁ、どうでしょうか~(笑)。皆様にも是非予想していただきたいです。
(※筆者注 のちに三太と発表されました!)

忠兵衛にいまの私の経験が反映できたら
──先ほど、この作品のご経験が、俳優としても大きな財産になられている、というお話がありましたが、その重みを言葉にしていただくとすると?
やはり、宝塚でトップスターという立場に立たせていただいた時には、強い責任感を持っていたんですよね。常にカッコよくなければいけない、宝塚の男役として「これが正解なんだ」という姿でなければいけないと言いますか。もちろん当時はそれが必要だったのですが、いま振り返るとある意味でその気持ちにがんじがらめになってもいたなと。でもそうした思いとは全く違うところで演じなければ成立しなかった忠兵衛での経験が、劇団や組の仲間たちを代表しているトップスターとして背負っていたものを降ろして、ひとりの俳優として歩みはじめた時の役への向かい方に通じていたんですよね。実力ひとつで勝負していく世界なので、人間的なものがより大切になっていく。人間として深くなればなるほど、表現の幅も深まっていくので。
──先ほどおっしゃった細胞レベルで役を落とし込んでいくためには、ご自身の深化が大切ということでしょうか?
そうですね。ですからここまで歩んできて、自分なりに経験を積んできた、いまの私が忠兵衛を演じた時に、それが少しでも反映されているといいなと思います。もちろんこの作品に求められている「型」というものは確実にあると思うのですが、やっぱりどの作品のどんな役を演じるとしても、内面的なものはとても大切だなと思っています。私自身もそこを大事に思ってやっていますし、俳優として演じるいまだからこそ人の負の要素についても臆せず表現できたらいいなと思います。
──その「型」もある、とのところで改めてというお話になりますが『心中・恋の大和路』という作品全体については、どう感じていらっしゃいますか?
私はシェイクスピアに通じる作品だなと感じています。近松門左衛門先生が「日本のシェイクスピア」という存在でいらっしゃることが大きいと思いますが、何百年も経って、世の中は全く変わっていても、登場人物たちの心情を「あぁ、わかる、わかる!」と共感できるんです。実際に起きた事件を題材にしているので、大団円で終われる作品ではないのですが、人と人が存在する限り、誰かに恋をしたり、人間関係に悩んだりすることって、決してなくならないですよね。そういう普遍的なものが描かれているのが、この作品の魅力のひとつではないかなと思いますし、だからこそ長く愛され続けているのだろうと。
──その普遍的なドラマに音楽が入ってくる、特にクライマックスの効果には大変なものがありますが、楽曲の魅力についてはいかがですか?
本当に名曲揃いですよね。特にいまおっしゃった終幕の「この世にただひとつ」は、むせび泣くようなギターが奏でられ、親友の絶唱のなか、忠兵衛と梅川が手に手を取って雪の中を進んでいく、この作劇と演出がすごいなと思います。実は私、先日芸能生活30周年の記念ライブを開催したのですが、この作品に出ることもあり、「この世にただひとつ」を忠兵衛の心情で歌ってみたらどうなるんだろう、と思ってチャレンジしたら、それはそれで成立したんですよ。当時は八右衛門の歌を聴きなが死にゆく芝居をしていましたが、それを忠兵衛として歌ったことによって、より新しい解釈が生まれた気がして。聴きにきてくださった方も「成立するんだね」と言ってくださって、挑戦して良かったですし、芝居にも活かせたらいいなと思っています。

様々な方面につながっていく舞台に
──宝塚の名作を朗読劇でというこの企画の可能性についてはどう感じられますか?
第一弾の『忠臣蔵』の成果あってこそ、企画としてつながったんだと思います。私も観られて良かった!と思いました。素晴らしかったですよね。
──キャストの皆様の熱演はもちろんですし、構成も見事でしたね。入っていて欲しい場面は全てあるという感覚で。
上演台本、演出の荻田浩一先生ご自身も宝塚が大好きで、愛しておられるからこそ、ファンの方が求めるものをわかっていらっしゃるんだろうなと思います。いまこの企画は日本物が続いていて、今後どうなっていくのかわかりませんが、私は宝塚の日本物は、演劇界においても立派に成立しているひとつのジャンルだという誇りを持っているんです。それを俳優となった私たちが演じることによって、宝塚の日本物がどういうものなのか?を、改めて知っていただける機会にもなると思います。そういう意味でも私はすごく素敵な企画だなと思っていて、次につながるものにしなければ、というプレッシャーもありますけれども、今回の朗読劇を観てくださった方が、宝塚の日本物に興味を持って実際に観に行ってみようと思っていただけたらとても嬉しいです。そうした様々な方面につながっていける舞台になったらいいなと思っています。
──またこうした朗読劇、作品のガラ・コンサート、多彩な企画のショーなど、宝塚OGの方々が集う公演がますます盛んになっていますが、現役当時に共演されていない方たちも集まられるOG公演に臨む時に、壮さんご自身のお気持ちもほかの舞台とは違うものがあるのでしょうか。
私がOG公演に参加させていただく時に楽しみにしているのは、宝塚を卒業されてからそれぞれ異なる道を歩んでこられた方たちが、再び集ってどんな表現をされるのか?を見られることなんです。もともと人間観察がとても好きですし、自分自身も男役から女性を演じる立場になったときに、勝手がわからなくてあたふたしたり、いろいろ悩むことも多かったんですよね。でもそれは私一人の問題ではなくて、皆さん経験していらっしゃることで、男役だけではなく娘役もある意味「宝塚」という世界のなで生きている存在から、俳優として女性を演じることの違いは確実にあると思います。その経験を経た人たちがどう表現するのかはとても興味深いですし、中心としているフィールドがミュージカルなのか、ストレートプレイなのか、もっと違うジャンルなのかでも表現が変わる。更に、現在は俳優という仕事を生業にしていらっしゃらない方たちも出演されます。そうした皆さんが集うことで起こる化学反応がすごく面白いんです。
──本当に皆様どんどん進化されて、同じ歌を唄われていても確実に豊かになられているので「だからOG公演はやめられない!」という気持ちになります。
ありがたいことだなと思います。もうひとつ個人的には、先輩方も後輩もそうなんですが、こういうOG公演で「男役」になった瞬間に皆さんパッと戻られるんですよね。そのスイッチが入る瞬間を見るのが楽しみです。一宝塚ファンとしてキュッときます。
──それはまさしくファン心理を突いたお話です。壮さんご自身もスイッチが入るのを感じられますか?
入りますね、やっぱり細胞が覚えているので。
──ますます公演が楽しみですが、壮さんご自身のビジョンとして、今後やってみたいことはありますか?
『メアリー・スチュアート』を観に行った時に、人生で初めて1番前のお席をいただいたんです。役者さんの息遣いも感じられる、稽古場で見学させてもらっているような気持ちで拝見できて、本当に素晴らしくて。会話劇の奥深さを感じられた機会になったので、文学作品ですとか、これまで残念ながらご縁をいただけていないシェイクスピア作品にも挑戦したいなと思っています。それから『心中・恋の大和路』とはまた違う形で、近松門左衛門先生の心中ものにもいつか関わりたいです。私は自分の俳優人生はちゃんとできているんだろうか?と、いつも自問自答しながらやっているのですが、続けていく限りは常に成長していきたい、進み続けていきたいという思いがあります。これまでご一緒させていただいた、また舞台を拝見した俳優の方々、皆さんお一人おひとりに感銘を受けているので、私もそういう俳優になれるように頑張っていきたいです。あとは、ライフワークとして自分自身を表現する場であるライブは続けていきたいと思っています。
──これからの壮さんも歩みも楽しみしています。では最後に谷先生もきっとご覧になっていると思いますこの公演を、楽しみにしている方たちにメッセージをいただけますか?
谷先生はすごく心配されていると思うんですよ。私のターニングポイントになった作品が谷先生のものだったことがとても多くて、谷先生の私への評価って「お前、大丈夫か?」だったと思うので。でもだからこそ谷先生に「どうですか?」と言えるものをお見せできるようにしたいです。先生は絶対に「まだやな」とおっしゃると思いますが、でも先生に挑むつもりで演じたいです。
──「立派になった」とおっしゃると思いますよ。
ないないない!それは絶対にないですが(笑)、私の役者魂を込めて演じたいと思いますので、是非観にいらして下さい!
取材・文/橘涼香 撮影/吉原朱美 ヘアメイク/沖山吾一 スタイリスト/多木成美(コンテンポラリー・コーポレーション)ジレ/ \94,600、パンツ/ \47,300 ◇Kartika(FUKI PRESS ROOM 03-6418-6779)、イヤーカフ/ \7,700、ネックレス/\6,600、リング/\4,860、バングル/\9,900 ◇ABISTE(株式会社アビステ 03-3401-7124) ほか、スタイリスト私物

【公演情報】
朗読歌劇『心中・恋の大和路』
オリジナル脚本・演出◇菅沼 潤/潤色・演出◇谷 正純
上演脚本・演出◇荻田浩一
音楽◇吉﨑憲治
出演◇瀬戸内美八、南風 舞/壮 一帆、愛加あゆ
日向 薫
未沙のえる、未来優希、彩吹真央
美郷真也、寿つかさ、羽純るい、久路あかり、和海しょう
※瀬戸内、南風、日向、未沙は初演ヴァージョンのみ出演。
●2026/6/24(水) ~ 2026/6/28(日)◎東京・草月ホール
●2026/7/2(木) ~ 2026/7/3(金)◎兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
〈料金〉12,000円 (全席指定・税込)
【お問い合わせ詳細】
公式サイト https://www.umegei.com/yamatoji/
企画・制作・主催 梅田芸術劇場
















